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コラムは、日本・世界の諸宗教の現場がみえる読みやすい解説を、専門家から寄稿いただくコーナーです。
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第15回 実証的宗教心理学的研究への招待

第15回 2012/05/25

実証的宗教心理学的研究への招待

 このコラムをお読みになっている方々にとって「実証的宗教心理学的研究」との言葉は決して馴染みのある言葉ではないように思われます。「何か難しい感じだなあ…」と思われる方も多いように思います。このコラムでは、この馴染みのない何か難しいと感じてしまう「実証的宗教心理学的研究」を紹介し、少しでもこの分野のことを知ってもらいたいと考えています。

 このコラムでは、2つの柱から説明したいと考えています。1つは、私も編者の1人として関わった『宗教心理学概論』についての説明です。『宗教心理学概論』(金児曉嗣(監修)、松島公望・河野由美・杉山幸子・西脇 良(編)、ナカニシヤ出版、2011年)は実証的宗教心理学的研究を中心にまとめられた概論書となっています。本書については2011年9月25日に葛西賢太氏がこのウェブサイトにて『宗教心理学概論』の書評をして下さいました。その書評に対するレスポンスの形で説明させていただきます。もう1つは『実証的宗教心理学的研究を行うということ』と題して、私自身が行った研究を紹介する形で、この分野の研究の実際を少し垣間見ていただきたいと考えています。
 このコラムをお読みになって少しでも「実証的宗教心理学的研究」の理解を深めていただき、この分野にご招待することができれば幸いです。
 

1.葛西賢太氏による『宗教心理学概論』書評に対するレスポンス

 葛西氏の書評は、4つの見出しに分かれていることから、その見出しに沿った形でレスポンスしたいと考えています。私自身、本書を取りまとめた編者の1人ではありますが、このレスポンスについては私個人からのレスポンスであり、編者全員を代表する見解ではないこともご留意いただきたいと思います。

 (1)「実証的」な宗教心理学を包括的に
 本書は、「実証的な研究方法を用いた心理学的宗教心理学研究や宗教社会心理学研究を中心に概説する(第1章:4頁)」とまず最初に記されているように、実証的研究の立場からの概論書となっています。実証的研究とは、調査データや実験データに基づいて論じることを指しています。
 葛西氏が、本書は今田恵『宗教心理学』文川堂書房(1946年)以来、約60年ぶりに刊行されたとの言及について、「松本滋の『宗教心理学』東京大学出版会(1979年)がその間にある」と指摘しています。しかし、上記の実証的研究の立場からすると、松本滋の『宗教心理学』は宗教学的な立場からの概論書であることから、本書とはその立ち位置を異にしています。実際、その説明は「実証的研究に基づいた科学的心理学」のものとは全く異なっています。そのようなことから、科学的心理学の流れから考えると、1946年以来、約60年ぶりの概論書としての刊行となるわけです(この件については、本書の「はしがき」にも触れてあります)。
 本書がこの「実証的」に立ったことによって、葛西氏が指摘しました以下の2つの文章のようなことが起こりました。
「本書がこの「実証的な」研究に絞ったために、一般読者が「宗教心理学」に普通に期待するような現象が対象外になっている。本書のタイトルに「実証主義的」あるいは「実証的」を冠して、宗教心理学の中の本書の位置を明示した方がより内容を正確に反映できるのではないか」
「精力的につくられた概説書ではあるが、一方で、読者が「宗教心理学概論」というタイトルの本に期待するものとはズレがあることも、評者としては強調しておきたい」
 この文章を読んで、タイトルの件を含め「その通りだ」と思いました。タイトルについては、副題に「実証的宗教心理学的研究への招待」とつけてもよかったかもしれません…。この反省を込めて、本コラムでそのタイトルをつけることにしました。
 もう1つの「読者が感じるズレ」ですが、その理由もはっきりしていると思いました。その理由とは、これまで刊行された宗教学、宗教心理学に関する本においては、本書で示したような実証的宗教心理学的研究について紹介されることはなかったからです。
 松本滋の『宗教心理学』を始めとして、「宗教心理学」が紹介される際には、いわゆる「宗教学的宗教心理学」の立場からの紹介にとどまっていることが多かったのです。そのような形での紹介しかないわけですから、読者にとっては「宗教心理学」=馴染みの「宗教学的…」となっているわけですので、本書を読んでみると「あれ…?」と思うのは当然であるように思いました。
 しかしこれは一般の読者の方々に限ったことではなく、私が属する心理学の世界でも同じでした。本書が刊行された後、ある著名な心理学の第一人者の先生から「心理学の中にこんな分野があったことを初めて知った」とのコメントをいただきました。これぐらい実証的宗教心理学的研究はみなに知られていない分野であったのです。
 このような現状の中での刊行でありますから、「まず知ってもらおう」というのが本書の主要な趣旨の1つであり、この趣旨に沿って本書は構成・編集されたわけなのです。

(2)一章を割くべきか、コラムで済ませるか
 本書は、先述した「実証的研究に基づいた科学的心理学」の立場からまとめられています。その科学的心理学では、現在でも数量的研究が中心であり、主流となっています。そのことが前提となっていますので、数量的研究が章として割かれるのは当然であるように思います。葛西氏による研究史の指摘もそれに呼応している面があります。「キリスト教対象の研究に偏っている」との指摘も、これまでの研究はミッションスクールを中心にキリスト教を対象にした数量的研究が実際に多かったことに由来しているのです。
 また、「質的研究」についても指摘がありますが、日本の心理学会でも近年、質的研究への注目が高まっており、私もその重要性を認識しています。しかし、宗教心理学の中ではまだそれだけの研究が積まれておりません。しかし重要であることも間違いありませんので、コラムとして扱ったのです。
 これは「ジェンダー」についても同じです。ジェンダーと宗教心理の研究は未だ決して多くはありません。加えて本書は実証的研究を基に説明することを目的としていますので、ただその問題を論じるだけではその趣旨に適いません。しかし葛西氏の指摘の通り、ジェンダーと宗教心理も重要なテーマであることからコラムとして扱うことにしました。
 松島・杉山による宗教意識調査の一覧表(56-57頁)は、葛西氏が指摘した世論調査に関するものについてはあえて加えませんでした。それらの調査については、すでに石井研士『データブック現代日本人増補改訂版』新曜社(2007年)といった形で示されていることから、本書の趣旨に沿って、これまで取り上げられることが少なかった研究を中心に取り上げることを目的としたためでした。

(3)「宗教」はどこにあるのか
 「宗教学で重ねられている「宗教」概念を再吟味する諸研究は本書の視野には入っていないが、ここで暗黙の前提とされている「宗教」や「実証的」という語の意味をあらためて問い直してはいかがだろうか」-葛西氏の指摘を読んで、宗教学と心理学のスタンスの違いと言わざるを得ないと思わされました。
 心理学者にとって「実証的研究」とは「調査データや実験データに基づいて論じること」を指すと先述しましたが、常にここが基盤となるわけです。概して、心理学者は調査、実験を行うことを前提として、「宗教」概念や「宗教性」概念を検討します。その際、宗教学で検討された「宗教」「宗教性」概念も検討することもありますが、あくまでも調査、実験を行うにあたっての出発点となります。それらの構成概念の検討を踏まえて、自分たちが行う調査、実験における「宗教」「宗教性」とはこういうものであると定義し、その定義に基づき調査、実験を行っていきます。その調査、実験の結果を基に、定めた構成概念について検討し、データによって裏づけていく(データに基づいて論じていく)との手順を取ります。
 このように見ていくとわかるように、「宗教」「宗教性」概念については、それぞれの調査、実験によってその扱い方が異なってくることが多いのです。宗教学で重ねられている「宗教」概念を再吟味する諸研究も参考にすることもありますが、それは自らが行う研究の「前提」として扱うことから、やはり宗教学と同じようなスタンスでこの問題を扱うことは難しいと思います。しかし、「前提」なのだから現状のままでよいとは思っていません。私自身が扱った第2章2節では、これまでのデータから「宗教性」の統合を行っていくメタ分析に関する提案を行っています(55頁)。心理学も心理学の側でできることを模索しているのです。
 「「宗教」が「どこ」に現れるか」との葛西氏からの指摘も上記の形で捉えることができます。スピリチュアリティの章も、どのように実証的研究を進めていくのかとの立場から展開していることを踏まえますと、「日本の宗教界周辺で話題になった事柄」は章全体としてのスタンスとは異なるものと考えられると思います。在宅医療については私も重要であると考えています。と同時に、在宅医療の現場を実証的に研究することの難しさも強く感じます。葛西氏が挙げて下さった研究もあることから、この在宅医療のテーマをどのように扱っていくのかは今後の課題とさせていただきたいと思います。

(4)クリティカル・シンキングを導く教科書として
 葛西氏より「本書における事例の扱い方は、詳細に吟味するにはものたりないと、評者はたびたび感じさせられた」との指摘がありましたが、葛西氏も紙数の問題なども考慮して下さった上での指摘でもありました。
 私たちもできれば詳細な説明をしたいとの思いはありました。しかし、本書の主要な趣旨の1つが「この分野をまず知ってもらおう」であることは最初に記しましたが、これまでほとんど光が当てられることがなく埋もれることが多かった研究をできる限り紹介することに力点を置いたことから、どうしても個々の研究の説明は最小限になってしまったことがその理由の1つとして挙げられるように思います。「幅広くそして詳しく」を理想としますが、約60年ぶりの刊行ということもあり、「詳しく」よりも「幅広く」を主眼に置き、構成、編集したとの経緯があります。それぞれの教科書にはそれぞれの目的、意図があるわけですので、そのことも理解していただきたいと思っています。
 最後に、松本滋の『宗教心理学』を例に挙げ、「宗教学的宗教心理学」を含め、それらの内容の吟味や批判がなされていないとの指摘がありました。繰り返しになりますが、本書はほとんど知られることがなかった「実証的宗教心理学的研究」の紹介に力点を置いたため、「宗教学的」と「心理学的」との対比から論じることは今回の目的にしませんでした。
 これは私見ではありますが、それを論じてしまうとそれだけで1冊の本ができてしまうほどであり、簡単には論じることができない問題であると考えています。そのため、この指摘は別の機会で行いたいと考えています。その機会として、私の中でずっと温めていることなのですが、次の構想は「宗教学的宗教心理学」と「心理学的宗教心理学」の両方の研究者によってまとめられた「宗教心理学概論」です。それは葛西氏の注文にもある「実証的な宗教心理学」と「実践的な宗教心理学」との間を埋めるものにもなるとも考えています。

 

2.実証的宗教心理学的研究を行うということ

 書評のレスポンスにて、実証的研究とは「調査データや実験データに基づいて論じること」と書きましたが、読者の方々は「そう言われても…」も思っているのではないでしょうか。ここでは、私自身が実際に行った研究(拙著『宗教性の発達心理学』ナカニシヤ出版、2011年)を紹介する形で「実証的宗教心理学的研究を行うことの実際」を知っていただきたいと考えています(以下紹介する研究の全体像を知りたい方は『宗教性の発達心理学』をお読みいただければ幸いです)。

◆「キリスト教に関わる日本人の「宗教性」発達モデル」に関する研究
 私は、キリスト教A教団に関わる日本人を対象に「キリスト教における宗教性(以下、宗教性)」発達モデルに関する研究を行いました。そこでは、まずA教団に関わる日本人クリスチャンに面接調査を行い、そのデータを基に日本人クリスチャンの「宗教性」発達モデルを構成しました(質的研究)。さらに、そのモデルが妥当であるかを検討するために、数量的研究を行いました。数量的研究では、モデルの検討するための道具として「宗教性」に関する尺度を作成し、その尺度を基に、モデルを検討するとのプロセスとの手順を取りました。研究の流れとしては「モデルの構成→尺度の作成→モデルの検討」といったものとなります。以下、その結果をそれぞれ抜粋して実証的宗教心理学的研究がどのように行われたのかを説明したいと思います。少し長くなりますが、一連の研究の説明の前に前提となる「宗教性」概念の説明から始めたいと思います。
 
(1)「宗教性」の説明
 「宗教性」とは、「個人がどの程度キリスト教に関与しているのか」を測定する指標であり、個人がキリスト教についてどの程度、「信じるのか、感じるのか(宗教意識)」、「振る舞うのか(宗教行動)」を表しています。
 宗教学者の岸本英夫(『宗教学』大明堂 1961年)は、宗教意識を「宗教的行動の内行動的なもの。情緒的な経験を主とする宗教体験(情意的)、宗教的思惟(知的)を含む」と、宗教的行為(宗教行動)を「儀礼や布教伝道といった社会的要素の強い行動の外行動的なもの」と定義しています。
 この定義によれば、宗教意識とは、宗教的信念や宗教的知識が関わる認知的成分(信じる)と、情緒的な体験(宗教体験)が関わる感情的成分(感じる)を含む概念であり、行動的成分(振る舞う)は宗教行動に相当します。つまり、宗教意識と宗教行動を包括する枠組が宗教性といえます。
 この宗教性の枠組みに、私はさらにグロックおよびバービット1が示した宗教性の6つの次元を援用しています。その6次元とは次の通りです。①信念=宗教的な教えを信じること。②知識=教義、教典に関する情報を有すること。③体験=回心体験などを含み、宗教的経験や宗教的感情をもつこと。④共同体=信仰を介した対人的・情緒的な関わりを指し、集団への帰属感や社会化の促進に関連すること。⑤行動=礼拝、祈りなどといった特定の宗教的行動。⑥効果=以上の4つの次元が信者の生活や行動、精神などに及ぼす社会的、世俗的な影響を意味する。効果はさらに報酬(個人における心の平安、悩みからの解放、幸福感などを指す)と責任(倫理的禁止の受容や、宗教集団における責務を全うすることを指す)に分けられる。
 以上、宗教意識と宗教行動を含め、「宗教性」の構造を整理すると、表1となります。「宗教性」とは、「キリスト教について、知り(知識)、信じ(信念)、感じ・体験し(体験、共同体)、行い(行動)、それらの影響を受ける(効果)」ことを意味する言葉なのです。
 このように1.-(3)で書いた内容の通り、まず自分たちが行う調査における「宗教性」を検討し、その上で「宗教性」の定義を行い、その定義に基づき調査を行っていくのです。
 

(2)キリスト教A教団に関わる日本人クリスチャンの「宗教性」発達モデルの構成
 「宗教性」を定義した後、それを基に、キリスト教A教団に関わる日本人クリスチャンの「宗教性」発達モデルの構成を行いました。「宗教性」の発達とは、クリスチャンがどのようにキリスト教と出会い、イエス・キリストによって罪を赦され、救われる体験(回心体験)を含めキリスト教を土台とした歩み・生き方をして、クリスチャンとしての成長がなされていくのかを表しています。
 その「宗教性」発達のプロセスを捉えるために、実際にA教団に関わる7名の神学生(男性4名、女性3名)を対象に2年にわたる面接調査を行い、そのデータを基にモデルを構成するとの手順を取りました。神学生を対象にしたのは、モデルを構成するためには、ある程度の高いキリスト教への関与を維持している必要があり、牧師という宗教指導者に向かって歩んでいることから、宗教性の成長過程も捉えやすいと考えたからです。
 面接調査および本人の信仰体験談のデータを基に、時系列に並べ直し、「宗教性」の6次元ごとに分類して、まず各事例の「宗教性」発達プロセスを構成しました。その1例が図1となります。これはプロセス全体の一部で「現実定義(キリスト教会で共有されている考え方や価値観)との接触~回心体験」までを抜粋しました。7名の神学生を対象にしましたので、このプロセス図を7つ作成しました。
  
 この7つのプロセス図をさらに整理し、分類を行い、最終的に図2に示した「日本人クリスチャンにおける「宗教性」発達モデルを構成しました。
 紙数の関係で全ては説明できないので、最初の「現実定義との接触」を見てみますと、どの事例を見ても、まず「クリスチャンである親や友人とのやりとり(共同体)」、「聖書の学びや教会での説教を聞く(知識)」、「教会出席、聖書通読を行う(行動)」といったエピソードが出発点となることが多く、「共同体」「知識」「行動」がキリスト教との接触の重要な要因になることが明らかになったと示したわけです。
 以上のような手順を踏んで、「日本人クリスチャンにおける「宗教性」発達モデル」を構成し、データに基づいてその発達プロセスを明らかにしました。
 

(3)日本人クリスチャンにおける「宗教性」尺度の作成
 7名の神学生から質的研究の方法を活用してモデルを構成しましたが、これらの検討だけではモデルの妥当性について確かめられたとは言い難いので、私はこのモデルを基に質問紙調査による数量的研究を行い、モデルの妥当性についてさらに検討する必要があると考えました。この質問紙調査による数量的研究を行うために、その道具として「宗教性」に関する尺度を作成する必要があります。私は、「宗教性」概念に基づいてより詳細に下位概念を検討するために、①宗教意識尺度、②宗教知識テスト、③宗教行動尺度という3つの測定尺度(テスト)を作成しました(今回の尺度では、「成人版」「中高生版」の2つを作成しました)。
 これらの尺度も、A教団に関わる日本人を対象にして、まず予備調査を行って、尺度の下地を整えました。その後、本調査を行いました。本調査のデータを基に、「宗教性」概念にどれだけ適ったものであるのかの検討を含めて、「因子分析」という分析を行って、尺度の精度を高めました。その結果の一部が表2(宗教意識尺度のみ掲載)となります。「信念ならば信念」「体験ならば体験」といったように、その次元の内容(概念)に適った(関連した)まとまり(四角囲みになっている箇所)になっていることが数量的な分析からも示されたと言えるのです。
 これ以外にも複数の調査も行い、どの程度作成した尺度の妥当性(「宗教性」概念を正確に反映した尺度になっているか)や信頼性(同じ人が何度もこの尺度を回答しても一貫した、安定した結果になるかどうか)についても検討して、尺度としての精度を高める作業を行いました。分析道具としての尺度が完成して、いよいよ最後にこの尺度を使ってモデルの検討を行うことになります。

 

(4)キリスト教A教団に関わる日本人における「宗教性」発達モデルの検討
 拙書『宗教性の発達心理学』では、①青年期前期・中期(中学・高校生)、②青年期後期(18~25歳)、③成人期(26~64歳)の3つの年齢段階に分けてモデルを検討しました。ここでは、結果がよりわかりやすく示された①青年期前期・中期(中学・高校生)の結果から説明したいと思います。
 今回のモデルの検討では、作成した「宗教性」に関する尺度およびたとえば「あなたには回心体験における契機になった聖書の言葉はあるか・ないか」といった個人データを基にモデルの各局面ごとの関連、差異を分析する方法をとりました。その結果が図3となります。これらの結果から比較的数値から理解しやすい[5](回心体験前の)「気づき体験」→「信念」[単回帰分析]の局面を取り上げたいと思います。
 図3の[5]の局面は、クリスチャンにおける契機の聖書のあり・なし群および非クリスチャン群について、「気づき体験」と「信念」がどのように関連しているかを検討したものです。その結果を見ると、クリスチャン契機の言葉あり群=.688、クリスチャン契機の言葉なし群=.826、非クリスチャン群=.835と、非クリスチャン群を含め全ての群で「気づき体験」が「信念」にプラスの影響を与えていました(単回帰分析の結果は、-1~±0~+1の範囲を取ります)。
 非クリスチャンもキリスト教に対する日々の気づきが信念に影響を与える…?。私はこの結果から、非クリスチャンについて、「たとえキリスト教を信じていなくても、日常生活の中でキリスト教や教会に関わり、神の存在や神の愛といった神に関連する事柄について考え、感じるとの体験によって、信念にプラスの影響を与えるのではないか」と考察しました。
 以上のような形で、数量的データから「宗教性」発達モデルの各局面ごとに詳細に分析し、質的研究とはまた異なる方法で「宗教性」発達モデルを検討することができるのです。また、私の研究はここで終えていますが、たとえばこの結果を基にさらに非クリスチャンに面接調査を行い、この結果を裏づけていく=モデルの精度を高めていくこともできるのです。
 今回紹介した私の研究は、実証的宗教心理学的研究のほんの一例に過ぎません。質的研究、数量的研究共に様々な方法が数多く存在しています。それらの方法を活用して、自分たちがターゲットにした現象についてアプローチしていくのです。
 ただ、繰り返しになりますが、実証的研究とは、調査データや実験データに基づいて論じることを常としており、実証的研究を行う際は、データ以上のことを論じてはいけないことも忘れてはならないのです。

 

3.おわりに

 本コラムでは、「実証的宗教心理学的研究」について紹介してきました。いかがだったでしょうか…。「データや数字で何がわかるんだ」「宗教性や宗教現象は非常に複雑なものだからデータや数字から解明することなんてできない。とんでもない話だ!!」-そのような声も聞こえてきそうです。
 私も「まさにその通りだ」と思います。宗教性、宗教現象の「全て」を解明しようなんて本当にとんでもない話であると思います。しかし私の中で「全て」は不可能かもしれないが、「ある部分、ある側面」は実証的研究を通して見えてくるかもしれないとの思いがあるのです。その「ある部分、ある側面」を実証的研究によって明らかにし、裏づけることができれば、私たちが見ている宗教性/宗教現象がまた違った見え方をするのではないかと考えるのです。その「違った見え方」を提供していくことにより、これまでになかった新たな還元、貢献を学問の世界、さらには社会に対してできるのではないかとも考えるのです。「実証的宗教心理学的研究」にはそのような可能性が大いにあると考えています。このコラムを読んで興味を持たれた方はぜひこの世界に一歩踏み出してみませんか…?



1 Glock.C.Y. (1962). On the study of religious commitment. Religious Education Research Supplement,57,98-110; Verbit, M.F. (1970). The components and dimensions of religious behavior: Toward a reconceptualization of religiosity. In P.E. Hammomd, & B.Johnson (Eds.), American mosaic(pp.24-39).  New York: Random House.
 

+ Profile +

松島公望先生

東京大学大学院総合文化研究科助教。
1972年 東京都生まれ。
2007年 東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。
博士(教育学)。
研究分野:発達心理学、教育心理学、宗教心理学。
主な著作:『宗教性の発達心理学』(単著、ナカニシヤ出版、2011年)、『宗教心理学概論』(共編著、ナカニシヤ出版、2011年)、『ようこそ!青年心理学』(共編著、ナカニシヤ出版、2009年)、「キリスト教における「宗教性」の発達および援助行動との関連:キリスト教主義学校生徒を中心にして」(『発達心理学研究』17,282-292.2006年)、「日本人高齢者における宗教性およびスピリチュアリティに関する実証的研究の可能性を探る」(『老年社会科学』31(4),509-514.2010年)など。
今回、研究を紹介させていただいたように、これまではキリスト教に関わる日本人を対象に研究を進めてきましたが、最近では、仏教、新宗教とキリスト教とは異なる対象についても研究を行っています。少しずつではありますが、さらに研究フィールドを広げていき、それらの研究成果から日本人の宗教性/精神性について言及していきたいと考えています。
また、現在、宗教心理学研究会の事務局をしています。宗教心理学研究会は、日本における宗教心理学的研究の活性化を目指して2003年夏に発足しました。心理学、社会学、宗教学、哲学、神学、仏教学、看護学、老年学など様々な分野の研究者、大学院生が所属しており、学際的な交流がなされています。研究会活動としては、毎年、日本心理学会年次大会において、ワークショップ(研究発表会)を企画しています。さらに、公開講演会・公開シンポジウムの開催、ニューズレターの発行、近年では、ワーキンググループ、勉強会、研究例会の開催とその活動は多岐にわたっています。
宗教心理学研究会に興味を持たれた方は、以下のウェブサイトにアクセスしてみて下さい。