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宗教こぼれ話

このコーナーは、宗教情報センターに長年住みついている知恵フクロウ一家の
長老・宗ちゃんと、おちゃめな情報収集家・情ちゃん、そして、
日々面白いネタを追い求めて夜の空を徘徊するセンちゃんが、
交代で、宗教に関わるさまざまなエピソードを紹介します。


第十五回「諸宗教を教える神学校、その行方は?」

2011/11/03 第十五回「諸宗教を教える神学校、その行方は?」 

宗ちゃん  この10月に、ロサンゼルス郊外のクレアモントに新しい神学校ができました。
http://www.claremontlincoln.org/

 クレアモントリンカーン大学というその神学校は、もともとはキリスト教の神学校が前身でした。ところがこの10月からは、イスラームについても、ユダヤ教についても教える学校に生まれ変わったというのです。一般教養としての講義があるだけではありません。この学校では、ユダヤ教のラビ(先生)、また、イスラームカウンセリングの資格などを取ることができます。

 キリスト教の位置を相対化するこうした動きには、支援者や卒業生から強い反発もあり、「地獄に落ちちゃうぞ」などという批判の声もあったそうです。
http://www.pbs.org/wnet/religionandethics/episodes/october-21-2011/multifaith-theological-education/9768/

 2001年9月11日の同時多発テロ事件以降、アメリカでは、イスラームに対する強い反発の一方、諸宗教が共存できる社会をつくろうという多元主義的な動きも広まりました。たとえばハーバード大学の多元主義プロジェクトでは、諸宗教の共通点と相違点とをわかり合うためのさまざまな情報を提供してきました。彼らが作成したOn Common Ground(共通の土壌で)というDVD教材は、2008年にその第三版がリリースされています。
http://pluralism.org/ocg/index.jsp

 このような学校が開かれた背景には、このような諸宗教の相互理解や共存という課題とともに、神学校だけでは学校として経営が難しくなっているため、間口を開いてゆく挑戦をしてみた、ということでもあるようです。

 さて、私が興味を持ったのは、この大学がどんな風になにを目指しているのか。諸宗教について教えることで、どんな人材を生みだしているのか。そのカリキュラムはどういうものか、ということでした。当初は、仏教徒やムスリム(イスラームの信者)やユダヤ教徒が入学して同じキャンパスで学び、仏教のお坊さんやイスラームのイマームやユダヤ教のラビになるための学科がそれぞれあるのではないかと思ったのですが、いまのところ、そうではないようです。学生さんは全員キリスト教徒で、しかし、一般教養として他宗教を学ぶだけではなく、ユダヤ教のラビとしての資格を得られるなど、深く知ることができる、これが特徴のようですね。

 人によっては、これじゃキリスト教徒の自己満足かとがっかりする人もいるかもしれませんが、このような発想は重要です。たとえばカウンセリングの場では、(カウンセラーがそれを避けなければ)宗教の話題に出会うことが少なくないため、それらをどう受け止めるかということはカウンセリングの成否に関わる大切なことであるからです。日本でも宗教文化士の認定試験が11月13日に行われます(http://www.cerc.jp/)が、諸宗教について知っていこうというこころみは、太平洋の向こう側とこちら側で、それぞれどうなっていくでしょうか。興味深く見守っているところです。