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趣味どきっ! 国宝に会いに行く 第2回「平等院鳳凰堂・浄瑠璃寺」

2015/04/14 (Tue) 11:30~11:55 NHKEテレ
キーワード
極楽浄土、九品往生、不安、生きること、死ぬこと
参考
番組公式
 国宝ブームの火付け役の一人であるライター・橋本麻里が、作家・演出家である大宮エリーを連れ、独特の切り口で今風に国宝を読み解く。今回は、京都の平等院鳳凰堂と浄瑠璃寺。日本美術に対して敷居が高く感じる人にとっても身近でわかりやすくその魅力をお届けする。

 一つ目は、極楽浄土をイメージして建てられた平等院鳳凰堂。その中堂には西方極楽浄土の仏、国宝阿弥陀如来坐像が安置されている。平安時代中期、末法思想という、1052年から仏教が衰え暗黒の時代が訪れるという考えが広まり、不安になった貴族たちが、極楽浄土へのガイドブック、往生要集に書かれた「極楽を具体的に思い描けば極楽に近付ける」という教えを頼りに、こぞって極楽を再現した建物を造っていったのだ。鳳凰堂もその一つで、その内部は、極彩色で鮮やかに装飾され、仏が来迎する様子を描かれた扉絵や、来迎神の姿を現した雲中供養菩薩像が数十体も置かれるなど、九品往生という、生前の行いによって九段階の極楽のどこかに往生できるという思想が具体化されている。
 橋本さんは、こうした仏像が美しければ美しいほど、当時の人々の不安への切実さが深いように思え、美しくも切ない、と語った。

 二つ目は、京都府木津川市にある真言律宗の寺院、浄瑠璃寺。平安時代中期に極楽浄土をイメージして建てられた。幸い都から離れていたため戦火を逃れ、今も当時の姿のまま伝わっている。鳳凰堂と同じく、大きな池とその後ろに西方極楽浄土である本堂が位置するが、ここには本堂より東の方角にもう一つの浄土、国宝・三重塔が建つ。仏の世界では、十方世界といい、方角によって複数の浄土があると考えられており、人は東の浄瑠璃浄土から現世へと送り出してもらい、亡くなると西の極楽浄土に迎えてもらうとされる。池を挟んで東西に意図して配置された三重塔と本堂が、敷地全体が浄土の世界を映す空間であることを象徴している。
 本堂に入ってみると、極楽の九つの位、九品往生を一つ一つ表現した国宝・九体阿弥陀如来坐像がある。九体阿弥陀が流行ったのは平安時代中期以降で、いよいよ末法の世に恐れを抱いた貴族たちはより多くの徳を積めるよう多数の仏像を造らせたのだ。こうした流行の始まりとされる藤原道長も、自らが没するときは、九体阿弥陀如来と結縁するために九体各々から自分の手まで糸を引き、西方浄土を願いながら往生したといわれる。

 こうした建物たちは、千年の時を越え、生きること、死ぬことの意味を私たちに語りかけてくれる。平安時代の人たちも、今の自分たちと同じように不安な気持ちに悩んでいたのだと感じるだけでも、救いを求める先がなかなか得られない現代人にとって、十分意味のあるものとなりそうだ。