研究員レポート
2026/05/28
CIR・DB ニュースレポート 2026年2月 イスラム |
宗教情報 |
荒木亮
宗教情報データベースを用いて、検索したいワードの欄に「イスラム ムスリム」と入力、期間を2026年2月1日~2026年2月28日と設定し、「類義語を含む」にチェックを入れて検索したところ229件の記事が抽出された。さらに絞り込み条件として地域のカテゴリの「日本」にチェックを入れたところ62件の記事が該当した。前月と比較すると2026年1月では記事の総数が331件、絞り込み条件に「日本」を加えた結果が105件であったことから、国内を中心に全体の記事が4割程度減少した。〈2026年5月20日現在〉
◆2026年2月の国外の出来事
米国のトランプ大統領が1日、核問題などを巡って軍事圧力をかけるイランに対して「世界最強の艦船を展開し、数日中に接近する」と述べたことを取り上げる記事(産経・東京 2/3)を筆頭に1月以来、米国とシーア派が多数を占めイスラム共和制を布く国家であるイランの間で軍事的緊張が高まっていることに関する報道が多数見られた(朝日・東京 2/3ほか)。また、平和計画を「第2段階」へ移行することが1月に発表されたがその後もイスラエルとイスラム主義組織ハマスの間で散発的に交戦が続くパレスチナ自治区の動向を伝える記事(しんぶん赤旗 2/3ほか)や、10日にムスリムが多数を占める国家であるインドネシアの政府関係者が同国軍部隊をガザに派遣するための準備を進めていることを記者団に語ったことを報じた記事(朝日・東京 2/11ほか)などガザをめぐる状況に関する記事も多く見られた。その他、ナイジェリア西部の村落にて3日、「イスラム国」の流れをくむ武装勢力が村民を160人以上殺害した事件に関する記事(ニューズウィーク 2/24)、パキスタンの首都にあるシーア派のモスクで6日、爆発が起き少なくとも31人が死亡した事件に関する記事(日経・東京[夕] 2/7ほか)や内戦終結後のシリア情勢に関する記事(読売・東京 2/5ほか)、12日に投開票されイスラム主義政党の得票数にも注目が集まったバングラデシュの総選挙に関する記事(読売・東京 2/14ほか)などが見られた。
◆2026年2月の国内の出来事
渋谷区にある東京ジャーミィについて、そこで広報を務める日本人ムスリムの下山茂氏らの説明をもとに取り上げた記事(週刊現代 2/2)や、キリスト教徒やイスラム教徒などの土葬希望者にも墓地を提供する京都府南部の山間部にある高麗寺の取り組みを紹介した記事(京都・京都 2/4)、神奈川県海老名市にある「海老名マスジド」への取材なども踏まえながらイスラム教の礼拝所であるモスクの説明やその実際の様子を報じる記事(神奈川・横浜 2/20、同2/21)などが見られた。その他、雇用するイスラム系の従業員のために礼拝の時間に合わせて休憩時間を設定し、会社の食事会にハラール食を用意する湯灌事業・生花事業を展開する企業の取り組みを紹介する記事(フューネラルビジネス 2/25)、27日より佐賀大学美術館にて始まる日本各地にあるモスクの建築をテーマにした展覧会について、企画者でありチュニジア出身のイスラム教徒で同大理工学部助教を務めるデルベルーラミ氏の話を紹介する記事(佐賀・佐賀 2/26)、静岡県内のイスラム圈市場への進出を見据えた動きの紹介としてハラール認証を取得した鰻のかば焼きを海外で販売する企業やハラール対応工場でアルコールを一切使用しない化粧品を作る企業の取り組みを紹介する記事(静岡・静岡 2/27)などが見られた。また、国際交流基金が2月、「宗教間対話」をテーマにASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国から10人の宗教研究者や政府役職者らを招聘しおよそ1週間にわたってモスクを含む日本の宗教施設や災害支援の現場を視察した研修内容を報じる記事もあった(中外日報 2/6、仏教タイムス 2/19)。
◆記事のピックアップとコメント
[1]
✓ 「イスラム圏がラマダン入り」[日経・東京(夕) 2/18]
✓ 「ラマダン、きょうから ガザ がれきの上で祈り」[しんぶん赤旗 2/19]
イスラム圏の一部が2月18日よりラマダン月を迎えた。記事では、この時期にイスラム教徒が日中に飲食をせず、信仰心を高めるといったかれらのラマダン月の過ごし方と、このラマダンがガザ地区では2025年10月の停戦発効後、初のラマダンとなることを伝えている[日経・東京(夕) 2/18]。またこの時期の現地の様子としてガザにある難民キャンプのイマーム(宗教指導者)の話を紹介している記事[しんぶん赤旗 2/19]もあった。
☞ 2026年(ヒジュラ歴1447年)のラマダン月(断食月)が2月18日(水)の夜より始まり、3月21日(土)頃のイード・アル=フィトリ(断食明けの祝祭)まで約30日間にわたって世界中のムスリムが断食の実践に取り組む。ラマダン月はイスラムにおいて神聖な時期とされ、日中の断食のほか、心の汚れを避けることがムスリムに推奨される。昨今では、スポーツの場面などでも断食中のムスリムに配慮があったり、またラマダン期間と大きな国際大会が重ならないような日程調整が行われることもあるが、かれらが少しでも健やかな気持ちで宗教実践に臨めることを願いたい。イスラム教の断食についての詳細は下記の[◆+α 用語ミニ解説_イスラムの断食]もあわせて読まれたい。
[2]
✓ 「ロヒンギャに関心を きょうまでイオンモール太田」[上毛・前橋 2/1]
✓ 「ロヒンギャ文化知って 館林で初開催イベント」[上毛・前橋 2/15]
上毛新聞が地元の群馬県にて行われた、イスラム系少数民族のロヒンギャにまつわる2つのイベントに関する記事を掲載している。一つ目は同県太田市のイオンモール太田で1月31日~2月1日にかけて行われた「カルチャーブリツジネオ」を取り上げた内容であり、ロヒンギャが経験する突然の軍事攻撃時の避難や危険な船旅の一端を体験するなど同イベントを紹介する記事(上毛 2/1)である。また、もう一つは同県館林市にて14日に行われた「同じまちで暮らす、いろんな私たちin館林市」を取材した内容であり、ロヒンギャやミャンマーにルーツがある日本生まれの子どもたちがミャンマー語やロヒンギャ語で歌や簡単な演劇を披露されたことなどを紹介する記事(上毛・前橋 2/15)である。
☞ 日本には約300人のロヒンギャが居住していると推定されており、かれらはミャンマーの軍事迫害を逃れて1990年代以降に日本へ来日し、群馬県館林市などでコミュニティを形成してきた。昨今、ロヒンギャをめぐっては、2017年8月にミャンマー国軍が大規模な掃討作戦を実行した結果、数か月のうちに70万人以上のロヒンギャがバングラデシュを主とした隣国に逃れるなどの大きな混乱が生じた。現在に至っても問題解決の糸口が見えず、多くのロヒンギャが命の危機に晒されている。こうしたイベントを通じて、単に異文化を知るに留まらず国際社会が抱える問題を私たち一人ひとりが考える機会としていきたい。ロヒンギャ問題の背景などについては下記の[◆+α 用語ミニ解説_ロヒンギャ問題]もあわせて読まれたい。
◆+α 用語ミニ解説
イスラムの断食:毎年、太陰暦(イスラム暦)の第9月にあたる約30日間、日の出前(厳密には夜明け前の礼拝の前)から日没(厳密には日没の礼拝のアザーンが流れる時)までのあいだに食べたり飲んだりをしない宗教的な実践を行うことが、イスラムの断食(ラマダン)であり、夜間はその規則から解かれて自由に飲食ができます。ちなみに、全てのムスリムが絶対に守らなければならないわけではなく、幼児やその母親、生理中の女性、病気の者や旅行者などは断食が免除されます。また医療従事者や建築現場の労働者など日中に命にかかわるような重要な仕事に従事する者は断食を免除されたり、別の日に振り替えることも可能であるという考え方を説くイスラム法学者もいるようです。詳しくは今年の断食について解説した研究員レポートをご覧ください。
ロヒンギャ問題:主にミャンマー南西部のラカイン州に住む、ロヒンギャと呼ばれるイスラム系少数民族に対する迫害や暴力、弾圧とそれによりかれらが直面する人道的危機をめぐる状況を指します。ラカイン州は、バングラデシュとも国境を接し、また英国植民地時代にはビルマ(現在のミャンマー)に隣接する英領インド(現在のバングラデシュなど)から多くのムスリムをビルマへと移住させてきたこともあり、この地にロヒンギャが、国民の約9割が仏教徒であるミャンマーの中でいわゆる宗教的マイノリティとして集住してきました。しかし1982年、軍事政権下のミャンマーで制定された「ビルマ国籍法」によりロヒンギャの国籍がはく奪され、国民としての権利が制限されたり、国軍による迫害や弾圧の対象となりました。その後、国軍とロヒンギャとの対立が続く中、ロヒンギャの武装組織がミャンマー治安部隊を襲撃したことを契機として2017年8月にミャンマー国軍による大規模なロヒンギャ掃討作戦が実行され、100万人近くのロヒンギャが難民として国外に逃れました。隣国であるバングラデシュだけでなく、木造船でマレーシアやインドネシアに密航するケースも報告されています(毎日・東京 2023/1/31、東京・東京 2020/6/10ほか)。現在に至っても、ミャンマー国内における混乱は収束せず、また国外に逃れたロヒンギャに対する支援の減少や難民キャンプの治安の悪化が指摘されるなど問題が長期化し深刻化しています。
