研究員レポート
2026/09/20
CIR・DB ニュースレポート 2026年5月・6月 経典 |
宗教情報 |
佐藤直実
宗教情報データベースを用い、キーワード欄に「経典」を入力し、検索期間を2026年5月1日~2026年6月30日と設定したうえで、「類義語を含む」にチェックを入れて検索した。その結果、計71件の記事が抽出された。内訳は、5月が37件、6月が34件であり、両月ともほぼ同程度であった。また、2026年3月~4月の63件と比べて、記事総数はやや増えた。 〈2026年9月8日現在〉
◆ 5月・6月の出来事
今期は「経典」そのものを扱う記事よりも、展覧会や法要、教育活動などを通して経典に触れる機会を紹介する記事が目立った。展覧会では、東京都港区の根津美術館の「美術のなかの文字」で『法華経』観世音菩薩普門品(観音経)の経文4750字によって形作られた観音菩薩像が初公開されたこと(信濃毎日・長野6/18)や、神奈川県立金沢文庫の「いわきの古刹長福寺と薬王寺」では、東日本大震災で倒壊した仏像の内部から発見された経典群が展示され、それらが手紙や調味料の製法を記した紙の裏面に書かれていたことが紹介されたこと(福島民友・福島6/2、福島民報・福島6/7、読売・神奈川6/13)など、多くの報道がなされた。法要としては、太平洋戦争でのアッツ島(アリューシャン列島)玉砕戦没犠牲者を慰霊する「アッツ観音大祭」が山梨県都留市で開かれ、経典が読誦されたこと(山梨日日・甲府6/13)や、皇室とゆかりの深い泉涌寺(京都)にて月輪大師 俊苒 律師800年御遠忌法要が2026年5月1日から5月8日にかけて営まれ、天台宗、禅宗、浄土宗、律宗の四宗派の経典が同時に読み上げられたこと(京都・京都5/2)なども報じられた。また、僧侶ボーカリストの薬師寺寛邦氏(海禅寺副住職)が、般若心経と現代音楽を融合した「般若心経MUSIC」誕生10周年を記念し、東京都内で4年ぶりとなるコンサート「Circle of Harmony」を開催すること(中外日報5/8)や、群馬県の定時制高校の生徒たちが川龍寺(曹洞宗)にて坐禅や写経体験を行った記事(上毛・前橋6/9)などの報道も見られた。さらに、経典の文字を石や岩に刻む「経石」に関する記事も3件確認された(中日・岐阜5/26、読売・和歌山6/5、山陽・岡山6/27)[→記事のピックアップとコメント参照]。
これらの記事から、経典が宗教儀礼の中だけではなく、美術や音楽、研究、学校教育など多様な場面で扱われていることがうかがえる。
◆ 記事のピックアップとコメント
✓「ひとトーク 住民と地蔵岩の環境整備」[山陽・岡山6/27]
✓「経石の記録5年 完了へ 初代紀州藩主の母ゆかり 住民ら多宝塔に戻す」[読売・和歌山6/5]
岡山県矢掛町の竹林寺山一帯はかつて修験道の霊場であった。周辺には「我」「身」などの漢字が刻まれた岩が点在しており、それらを順にたどると「舎利礼文[→+α 用語ミニ解説]」の文言と一致するという。小川大右氏(93)は、こうした歴史的・宗教的価値を持つ地域資源を守るため、「地蔵岩ヤッホー公園」の清掃やハイキングコースの整備を地域住民と協力して続けており、ボランティアなどの善行実践を推進する一般社団法人・日本善行会(昭和12年創設)から、2026年度春季特別善行表彰銀章を受けた(山陽・岡山6/27)。
一方、和歌山市の海禅院(日蓮宗)では、経文を書き記した15万点以上の「経石[→+α 用語ミニ解説]」を多宝塔地下の石室へ戻す作業が完了したことが報じられた。これらの「経石」は1648年、徳川家康の三十三回忌に、側室であるお万の方が追善供養や天下泰平を願って奉納を呼びかけたもので、後水尾上皇から庶民に至るまで多くの人々が参加したとされる。2004年の調査で取り出された後は倉庫に保管されていたが、倉庫の撤去が決まったことから、地元住民らが一つ一つを撮影・記録し、多宝塔地下の石室へ戻す作業を進めてきた結果、6月14日に最後の経石が石室へ納められ、5年に及ぶ取り組みが完了した(読売・和歌山6/5)。
☞これらの記事は、経典が単に読誦されるだけでなく、岩や石に刻んだり書写されることで、信仰や供養の対象として継承されてきたことを示している。竹林寺山の刻字岩にみられる「舎利礼文」と、海禅院の15万点を超える経石群は、ともに経典の文言を自然物に転写した事例であり、日本仏教における経典信仰の広がりを示している。特に経石は経塚信仰[→2026年1月・2月のピックアップとコメント参照]との関わりが深く、末法思想のもとで経典を後世へ伝えようとした人々の信仰実践をうかがわせる。
◆ +α 用語ミニ解説
舎利礼文:仏舎利(遺骨)を礼拝し、仏の加護による自身の成道と衆生救済を願う偈文である。多くの宗派で読誦され、葬儀や納骨の際にも唱えられる。「一心頂礼」「為我現身」「入我我入」などの18句から成る。
経石:経文を石に書写したもので、平らな石に小さな文字で経文がびっしり記されたり、貝殻に書かれたものや渦巻き状に文字を配したものなど、多様な形態が見られる。平安時代以降に広まった経塚信仰と深く結びついている。
