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日本国内で刊行された宗教関連書籍のレビューです。
約一ヶ月、さまざまな分野の書籍からピックアップしてご紹介します。毎月25日頃に更新します。
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最新の書評  2013/03/14

『神社のいろは(続)』『遷宮のつぼ』 神社本庁(監修) 扶桑社 2013年2月

一般の人々にとって、教典がない宗教である神道への取っかかりをつかむのは難しいのではないだろうか。『古事記』や『日本書記』を読んでも、押さえるべきツボがわからないと、ただの物語として頭のなかを通過してしまう。かといって、一足飛びに本居宣長や平田篤胤の著書を読むのはハードルが高い。その点、「神社検定」の公式テキストは神社本庁監修というだけあって信頼度が高く、標準的な解釈を基礎から学べるので有意義だ。
 「神社検定」(主催:日本文化興隆財団)は2012年に「参級」の試験が始まり、今年は「弐級」の試験が6月に初めて実施される。これに合わせて『神社のいろは(続)』と『遷宮のつぼ』の2冊が2月に発売された。「参級」兼「弐級」用の公式テキスト『神社のいろは』と『神話のおへそ』の続編である。神社の参拝方法、主な神社などについて解説した『神社のいろは』、『古事記』『日本書紀』『風土記』を紹介した『神道のおへそ』ともわかりやすく、ためになったが、今回は、よりレベルの高い内容がコンパクトにまとめられており、いっそうの充実感がある。
 2012年は古事記編纂1300年に当たっており、『神話のおへそ』は時宜を得たテキストだと思ったが、今回の『遷宮のつぼ』も、伊勢神宮の式年遷宮の中核をなす「遷御(せんぎょ)」の儀を10月に控え、さらに5月に挙行される出雲大社の大遷宮の本殿遷座祭を前にしての、これまたタイムリーな発刊である。


▲『神社のいろは(続)』1619円(税別)
 『神道のいろは(続)』の第1章は、縄文時代から戦後までの神道の歴史である。前編に当たる『神社のいろは』がQ&A形式で80項目を取り上げ、1項目が見開きで完結していたのに比べると、本格的な解説書という印象を受ける。第2章は前回と同じ形式を踏襲し、『神社のいろは』では紹介されなかった、ややマイナーな24社を取り上げている。
 
前編と同じく横書きで、重要な用語は赤字で示され、地図や写真も盛り込まれている。一見、平易なようにみえるが、ひとつの段落に要点が凝縮されていて密度が濃い。神道に疎い評者の例でいえば、精読するのに相当の時間を要した。
 律令時代の神祇祭祀、平安時代の朝廷祭祀、応仁の乱以降の祭儀停止、江戸時代における祭儀復興、明治期の皇室祭祀令と、現在の宮中祭祀への流れもよくわかる。伊勢神道、吉田神道、吉川神道、垂加神道、復古神道といった神道の基本は当然のことながら、神道と不可分の関係にある仏教や儒教、仏家神道、儒家神道などにまで言及しており、日本宗教の通史ともなっている。
 
 国家祭祀が営まれていた平安時代ごろまでは、日本史の教科書のようでもある。評者は、鎌倉時代の武家の根本法典としてしか認識していなかった「御成敗式目」が、御家人の神社に対する態度や神と人との関係を第1条で規定していたことを初めて知って、ちょっと感動した。
 ただし、とかく議論が起きやすい近代以降の天皇崇拝、戦後の靖国問題や宮中祭祀の変化については全くふれておらず、戦時体制下の神道についてもあっさりと流されている。
 

▲『遷宮のつぼ』2000円(税別)

 『遷宮のつぼ』は、伊勢神宮の式年遷宮の行事や遷宮時に新調される御装束神宝を中心に、出雲大社と上賀茂・下鴨神社などの遷宮も紹介する。縦書きで、重要な用語は太字という、いかにもテキストといった体裁ではあるが、ルポを織り交ぜていて読みやすい。カラー口絵も満載だ。
 式年遷宮の行事のいくつかはすでに済んでおり、新聞各紙の報道を見比べると細かな点で異なっていて戸惑うときがあるが、この詳細なテキストがあれば、正しい内容、漢字の正確な読み方もわかるので、助かる。
 2012年に原本が初めて公開された出雲大社本殿の平面図「金輪御造営差図(かなわのごぞうえいさしず)」は、「出雲国造(いづもこくそう)千家(せんげ)家」に代々、保管されていたものだが、この出雲国造家の祖は、『出雲国風土記』によれば、天照大神の第2子である天穂日命(あめのほひのみこと)だという。新聞報道では触れられていない、こういう話を知ると、得した気分になる。
 
 ちなみに、この2月には邪馬台国の最有力候補地とされる纒向(まきむく)遺跡で、小型建物の柱穴が100個以上見つかったと報道されたが、天皇にまつわる纒向の名前の由来が『神社のいろは(続)』に書いてあり、こちらも得心した。おそらく、これらのテキストをマスターすれば、伊勢神宮の式年遷宮や出雲大社の平成の大遷宮、古墳発掘のニュースが、いっそう面白くなるだろう。
 また、グローバル化が叫ばれて久しいが、世界に出ていく前に日本文化を押さえておくのは大切であると評者は考える。その意味でも、これらのテキストが多くの人々に活用されることが望ましいと思われる。惜しむらくは索引がないこと。索引があれば、辞書代わりにも大いに活用できるのだが・・・・・・。
 なお、神社検定弐級は、『神社のいろは』『神社のおへそ』から約15%、『神社のいろは(続)』『遷宮のつぼ』から約80%出題される。これらのテキストをマスターするには、相当の学習量が必要と思われるが、それだけに挑戦のしがいがありそうだ。
 

  
▲『お寺の教科書』 頼富本宏(監修)
お寺検定実行委員会(編)  枻出版社 
2013年1月 1200円(税別)
 さて、神道の検定があるならば仏教関連の検定は? と探したところ、第1回「お寺検定」(主催:お寺検定運営事務局/奈良新聞社)が3月17日に実施されるという。こちらは3級(初級)と2級(中級)が同時にスタートする。
 また、6月には第1回「空海・高野山検定」(主催:空海・高野山検定委員会)が開催される予定である。
 お寺検定の公式テキスト『お寺の教科書』の体裁は『神社のいろは』に似ており、見開きで1項目が説明されている。オールカラーで仏像のカラー写真も多い。「仏教」ではなく「お寺」に焦点が当たっているため、寺の系譜や各種の仏像の説明など、寺院巡りに携帯するのにもよさそうだ。
 ただし、こちらのテキストは、誤植が多いという問題がある。ルビ違い、不適切な説明、寺院名の間違えなど、公式サイト掲載分だけでも10以上ある。残念ながら、この誤植訂正表をみた段階で、熟読する気が失せてしまった。
 「空海・高野山検定」の公式テキストは3月中旬発売予定とのことで、まだ手にしていないが、このようなミスがないことを祈るばかりである。
 

 昨年始まった神社検定は申込者数6115名と好評だった。昨今、検定ばやりのなか、ご当地検定も含めて新たな検定がいろいろと出てきている。だが、2011年に始まった「日本仏像検定」は、2011年の第2回終了後の続報がない。検定で人々の関心を高めるのもよいのだが、事前準備と事後のフォローアップをきちんとしてなければ、長続きしないシビアな状況もあることを申し添えておく。

 (宗教情報センター研究員 藤山みどり)