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宗教情報センターの研究員の研究活動の成果や副産物の一部を、研究レポートの形で公開します。
不定期に掲載されます。


2013/05/30

真言宗の宗会解散、最福寺の朝鮮総連本部落札を巡る新聞報道比較

宗教情報

この2~5月にかけて、高野山真言宗の宗会解散、最福寺による朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)中央本部ビルの落札などが、一般紙でも報じられた。そこで、報道比較を行うことにする。

■高野山真言宗の資産運用を巡っての宗会解散
   まずは、高野山真言宗の宗会解散から。この発端は、2012年春の宗会(年2回開催される宗派の議会)で、開創1200年記念大法会の予算を運用して約6200万の損失が出たと報告されたこと[1]。2月26日に始まった2013年春の宗会では、「資産運用に関する提出資料に粉飾があったこと」、「弁護士事務所を利用して自己の正当化を図ったこと」の2点から事務方トップの庄野光昭宗務総長に対する不信任案が可決され、翌27日に宗会が宗教法人化後初めて解散された[2]。そして4月24日には、庄野宗務総長が辞任を表明した。2013年2月以降の動きは、一般紙にも取り上げられた。

(1)『朝日新聞』の報道
   この問題を一般紙で最初に報じた『朝日新聞』は、宗会解散前の2月27日東京版(以下、東京版は版名省略)に「高野山真言宗が巨額損失 運用に失敗、6億8千万円」との見出しで、「資金運用に失敗して少なくとも6億8千万円の損失を出していたことが、関係者の話でわかった」と報じた。
   2月28には「高野山真言宗 宗会を解散」との見出しで、執行部の『運用益もあった、評価額は回復する可能性が十分ある』との説明や、庄野宗務総長の「粉飾など事実無根」の声を紹介。執行部に批判的な関係者の主張は見当たらない。損失額は27日と同じく「約6億8千万円」とし、「約28億6千万円とされる投資元本の評価額は約16億5千万円に目減りしていた(昨年5月時点)」と2012年5月時点の評価額に言及している。
【朝日新聞.2.27
【朝日新聞.2.28

 
 だが、詳報した2月28日名古屋版が見出しに用いたのは、巨額の一時的な損失額だった。「高野山真言宗 巨額の評価損 元本割れ 一時12億円 執行部、危険性を認識」と掲げ、リードで「資金運用の失敗をめぐり、責任を問われた宗務総長への不信任案が可決された問題で、運用資金の元本が12億円も目減りしていたことがわかった。執行部は資金運用の危険性を認識していたが、運用益を期待し続けていたという」とした。本文を読むと、12億円とは2012年5月時点の評価損で、2013年1月時点の評価損は7億5千万円とわかるが、現時点のものとの誤解を招きやすいリードだ。記事の主眼は資金運用で損失が出たことであるが、不信任案が1票差で可決されるという分裂状態に至った経緯をも詳報している。そこでは、執行部に批判的な関係者の意見や宗会議員の怒りの声を紹介している。
 これに対して同宗の地元の2月28日和歌山版では、「高野山真言宗 資金運用めぐり混乱 『イメージ悪化心配』地元から困惑の声」の見出しで、執行部に批判的な住職と、不信任案に反対した議員の両者の意見を同程度に、また「内輪でもめている場合ではない」など地元の人々の声を紹介している。具体的な運用損失額については触れていない。

【朝日新聞(名古屋).2.28
【朝日新聞(和歌山).2.28

(2)他紙の報道
   では、他紙の報道内容を見てみよう。『読売新聞』2月27日夕刊は、「高野山真言宗の宗会解散を決定 資産運用巡り混乱」と宗会の解散を報じ、「庄野宗務総長によると、証券会社に任せていた資産運用の中で、2002~12年、計約9億円の利益が出たものの、商品によっては損失が発生したケースがあったという」と最終的には利益があったと報じており、『朝日新聞』とは異なる。
 『毎日新聞』と『産経新聞』2月28はともに、資産運用損よりも宗会の解散に主眼を置き、『朝日新聞』が触れなかった「宗会の解散は新宗教法人法施行の1951年以降初めて」[3]という特異性にまず言及している。『毎日新聞』は「02年から資金運用をはじめ、現在約30億円を運用。従来は30年満期など長期のものが多かったが、07年ごろから早期償還された資金の再運用で4~5年満期の短期商品を購入。そのうち昨年までに満期になった短期商品の運用損が約6億8000万円になった。ただ、森(寛勝)財務部長は『全体の運用損益では運用益が上回っている』と説明」と『朝日新聞』と異なり、最終的には運用益があったと報じた。『産経新聞』は「高野山真言宗が異例の宗会解散」との見出しで、資産運用の具体的な数値は報じなかった。「資産運用で損失が出ていることが指摘され、外部監査に対して虚偽の資料を提出したとして、宗務総長の責任を追及した」ため不信任案が可決され、庄野宗務総長は記者会見で「虚偽資料提出を全面否定した」と短く伝えた。
 この他の主な新聞はどうか。『日本経済新聞』『東京新聞』『京都新聞』2月28は、宗教法人化以来初の宗会解散を取り上げ、資産運用については最終的には利益が出たとしている。ただし、『京都新聞』は「宗会解散」よりも「高野山“お家騒動”」という見出しを大きく掲げており、他紙と異なる捉え方をした。
【読売新聞.夕.2.27
【毎日新聞.2.28
 

【産経新聞.2.28

(3)報道に対する反応
 27日に一般紙に報道された後、高野山真言宗のサイトへのアクセス数が通常の10倍の20万件となり、宗務所は末寺の住職や信徒からの電話対応に追われた[4]。『中外日報』(2013年3月2日)によれば、森財務部長は当初に報道した1紙に対して「損失額だけを強調し、運用方法についての報道にも誤りがある」などとして抗議する方針を示し、法的措置も検討している。ただし、この動きは、現時点までには確認できなかった。
 宗派は、3月1日に信者へのお詫びと宗会解散についての説明を公式サイトに掲載し、2002~2012年の金剛峯寺と高野山真言宗の資産運用実績の数値を公表した[5]

(宗)金剛峯寺・(宗)高野山真言宗 資産運用実績 2002年4月~2012年5月まで(単位:千円)
法人名 運用利益 運用損失 運用損益
金剛峯寺 891,334 418,681 472,653
高野山真言宗 699,839 270,650 429,189
合計 1,591,173 ※689,331 901,842
※当初の報道に掲載された数字
注)高野山真言宗サイトより

(4)『朝日新聞』の調査報道への展開
  その後の『朝日新聞』2013年4月22の社会面には「高野山真言宗 30億円投資 浄財でリスク商品も 信者に実態伝えず 『粉飾の疑い』混乱」などの見出しが躍った。「信者が知らないうちにお布施を含む30億円以上が高いリスクの金融商品などに投資されていたことが発覚し、執行部トップの進退問題に発展。宗教法人の資金運用のあり方が問われている」とし、①リスクの高い商品で運用されていたこと、②信者に運用実態を知らせていなかったことの2点で執行部を問題視した。運用成果については、「執行部(内局)によると、(中略)差し引き9億4千万円のプラスだ」と2月の記事とは異なる数値を出したが、「いま精算すればこれまでの利益と相殺するとプラスになる計算だが、庄野総長が理事長を務め、2法人から予算が入る学校法人などの運用実績は公表されていない」と含みを残している。ただし、「当初の目的は高野山にある新興宗教の跡地を買い取るため借りた11億円を早く返すことだった」とリスクが高い商品に手を出した動機も伝えた。この記事の末尾には、「『宗教とお金』についての情報を特別報道部に電子メールでお寄せ下さい」とのメッセージが付いていた。
 読者に情報提供を呼びかける『朝日新聞』の手法は、2011年1~2月にかけての報道とよく似ている(「休眠宗教法人急増という『朝日新聞』報道について」のレポート参照、下記注参照)。前回のように宗教法人を批判する調査報道が続くかと思われたが、今回は4月24日に宗会での管長の陳謝を短信で、また4月25日に宗務総長の辞任を伝えたあと、東京版では5月30日時点まで追記事はみられない。名古屋版では1カ月以上経ったあとの5月27日にやや関連する記事が掲載されたが、この問題を深く追及するものではなかった(追記1参照)。
【朝日新聞.4.22
【朝日新聞.4.25

 

(5)『朝日新聞』による宗教法人批判の背景
 『朝日新聞』が高野山真言宗批判を掲載した流れは次の通りである。高野山真言宗総本山で問題が生じる前に、名古屋市にある高野山真言宗の別格本山・八事山興正寺(やごとさんこうしょうじ)に関するニュースが『朝日新聞』名古屋版(2013年2月5日)の1面と7面で報じられた。これは朝日新聞が独自に入手した情報のようで、翌日の『中日新聞』が後追い記事を掲載した。内容は、興正寺が僧籍のない見習いに通夜を任せていたというもの。ハローワークの求人で見習いとなった男性は、納骨の作法がわからなかったため作法を省き、遺族は憤っているという。男性は、興正寺から「勤務態度が悪い」と契約更新を打ち切られ、2012年末に退職した。
 本文では、2年間修行させた見習いに任せたのは「修行の一環」という興正寺住職の言い分とともに、高野山真言宗総本山金剛峯寺の総務部次長の「問題ない。ただ、僧籍がなければ高野山真言宗の僧侶ではない」という意見や「正式な僧侶に任せるべき」という高野山真言宗の宗会議員の意見を紹介している。しかし、枠囲いで大きく掲載されたのは、葬儀専門誌『SOGI』の碑文谷創(ひもんやはじめ)編集長の「信義上に問題」とのコメントである。末尾では「葬儀や法事に関するご意見や体験を募集します」と、朝日新聞名古屋報道センター宛てに情報提供が呼びかけられた。
 翌2月6日名古屋版には、興正寺に辞めさせられた僧侶3人が不当解雇だと復職を求め、2007~2012年にかけて興正寺を相手に提訴しており、いずれも僧侶の主張が認められていたことが掲載された。翌2月7日名古屋版には、興正寺の問題に関連して、ハローワークで僧侶を募集しているケースを紹介し、意見募集の告知を再び行った。
 これらに対する名古屋在住の読者の「僧侶を嫌った妻の葬儀は宗教色を排して行った」という応答が2月8日(東京版、以下東京版の場合は版名省略)の投書欄に掲載され、これに応える投稿が連続して掲載された。2月21日には、「ハローワークで募集 見習い僧侶が通夜なんて」との記事が掲載され、名古屋発の葬儀・僧侶批判が全国に広がった。
 その後も名古屋版では葬儀への問題提起が続いた。2月25日名古屋版では、遺族の意向を尊重した葬儀に助言を行っている住職を紹介したが、同時掲載された「葬儀に関する読者の声」6件はすべて、寺院や僧侶に否定的な意見だった。3月21日名古屋版には、明朗会計をうたう葬儀団体の増加とその背景が紹介されたが、やはり同時掲載された読者の声(5件)は葬儀代や読経への疑問ばかりだった。
 これら名古屋版の記事は、すべて同じ記者2名による署名記事である。2月27日の「高野山真言宗が巨額損失」という記事も、この2名と宗派の地元・和歌山版の記事を書いた記者1名が書いている。ちなみに、執行部への批判色が薄い2月28日の記事は、無署名である。そして、件の4月22日の記事は、先述の名古屋版の記者2名に新たに2名が加わった署名記事である。4月25日の記事は名古屋版の記者1名と新たに加わった1名の署名記事で、辞任を伝えただけの他紙に比べて資産運用の問題を深掘りしていたが、読者に情報提供を呼びかける文言はなく、そのまま追及は止んだ。『京都新聞』[6]が5月9日に、「粉飾や虚偽報告はない」という資産運用報告書の承認と交換条件に宗務総長が辞任したという舞台裏を明かし、いまだに残る不透明な財務状況を突く共同通信社の配信記事を掲載したのとは対照的である。

 

■最福寺による朝鮮総連中央本部ビルの落札
 次に、高野山真言宗の最福寺(鹿児島市)による朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)の中央本部ビルの落札についての報道を見てみよう。2013年3月26日に、競売にかけられた朝鮮総連の中央本部の土地・建物を最福寺が入札下限額の約21億3460万円[7]を大幅に上回る45億1900万円で落札したニュースも、一般紙各紙で取り上げられた。
 朝鮮総連の中央本部は北朝鮮の事実上の「大使館」として機能してきた[8]。北朝鮮は2012年12月に長距離弾道ミサイルを発射し、2013年2月に核実験をするなど対外強硬姿勢を強めており、この春には朝鮮半島情勢の緊迫度が増していた。そのような折、2009年から5回訪朝する[9]など北朝鮮との関わりが深く、多くの政治家と親交をもち“永田町の怪僧”との異名をとる最福寺の池口恵観法主[10]が巨額で総連本部を落札した事件は、さまざまな憶測を呼んだ。池口法主は落札後に朝鮮総連への一部貸与も語り、落札の背後関係や資金の出所など、さまざまな企業や政治家の名が飛び交った。だが、池口法主は4月下旬ごろから「金融機関などと何度か融資の話がまとまったが国からの圧力ですべて壊れた」などと難航を示唆しており[11]、結局、購入代金の納付期限の5月10日までに資金調達できず、納入済みの保証金5億3400万円を没収され、再入札への参加資格も失った。

(1)宗教的動機を報じた3紙
 この出来事の報じ方にも、各紙に特徴が見られた。池口法主が語った取得目的や建物の活用方法については微妙な相違があった。『産経新聞』(2013年3月27日)は、「(北朝鮮の上層部から中央本部を残せるようにと頼まれており)中央本部が靖国神社の隣にあるということで、供養や慰霊の場としての利点もあり、何度か訪れるうちに『ここは譲りたくない』と思うようになった」「アジアをはじめ、世界の民族の融和と慰霊の拠点にしたい。(略)ただ、人々が祈りをささげる場所を作りたい」と宗教的な動機を記した。『朝日新聞』(2013年3月27日)も、「将来は英霊の供養と民族融和の拠点となるお寺を建立したい」とし、『読売新聞』(2013年3月27日)も「建物は民族融和の拠点として管理したい」と『産経新聞』『朝日新聞』が触れた慰霊や供養については省略したものの「修行や祈りの場として使いたい」という宗教的な活用目的を伝えている。
 一方、『毎日新聞』(2013年3月26日夕刊)では、秘書による池口法主の話として「アジアの平和の場として使いたい」、『東京新聞』(2013年3月26日夕刊)は「北朝鮮を含むアジア民族の融和の拠点にしたい」と宗教的な目的はなぜか省略されており、『日本経済新聞』には詳細な購入目的は報じられなかった。
 ただし、『東京新聞』(2013年4月12日)は、西日本新聞による池口法主のインタビューを掲載しており、「訪朝したときに『総連本部は大使館。もしなくなったら宣戦布告と同じだ』と言われ、絶対にそうならない形で収まるよう頼まれた。(略)政治家や宗教家は日本人を守るのが務め。だから私がやらんといかんと思った」という宗教的な落札動機や、「ゆくゆくは寺にしたい。立派な建物で、天井も高い。護摩行もできる」という用途も掲載した。また、落札断念後に『毎日新聞』(2013年5月10日)は、最福寺が同寺の関連施設や永代供養権を担保に融資すると主張していた件について、「そもそも自らの土地・建物を担保に入れる場合、総本山の高野山真言宗(和歌山県)の承認が必要だが、同宗によると、最福寺側からそうした申し立てはなかった」など他紙が報じなかった宗教団体の規定を掲載し、翌日には池口法主の「仏さまにちょっと待てと言われた心境」との感想を報じた。しかし、これら『毎日新聞』『東京新聞』『日本経済新聞』の各紙には、この問題の背景や問題点を深く追究する記事は掲載されなかった。

(2)宗教法人課税の問題を絡めて批判に徹した『産経新聞』
 池口法主の宗教的な落札動機を伝えた3紙のうち『産経新聞』は、北朝鮮による日本人拉致事件を最初に報じた新聞[12]で、2012年8月から拉致問題を検証する連載「再び、拉致を追う」を掲載しており、以前から北朝鮮に厳しい報道姿勢を取っている。1面に掲載されたコラム「産経抄」(2013年3月28日)では、葬儀の際のお布施の金額が明示されないのは困るという問題を切り口に「伝統仏教への不信感の表れ」を語り、そこからの脱却を目指すお寺の挑戦に触れたあと、「いくらお寺の活動の幅が広がったとはいえ、今回の朝鮮総連の中央本部の土地・建物の入札結果には、合点がいかない」「ミサイル攻撃の恫喝を繰り返す国に手を貸し、日本人の拉致の拠点となった建物を祈りの場とする。それが果たして、仏法にかなっているのか。お金の出所を含めて、『よくわかる』ように説明してもらいたい」と率直な批判を行った。3月30日の1面では、「落札者が税制上の優遇措置を受ける宗教法人となれば、課税の問題も浮上する」と建物の一部が祈りの場に使われた場合、使途が曖昧になり、課税しにくいという問題点や、購入資金について「仮に北朝鮮人脈がお布施という形をとって資金提供を行えば、非課税のまま融資金の返済に充てることも可能だ」と宗教法人への課税に特有の問題点を絡めて大きく取り上げた。
 『産経新聞』は、先の『朝日新聞』と同じく投書欄をも活用した。4月9日には、「日本人なら、『民族融和』を言う前に、まず拉致問題の解決のために活動すべきではないか。同寺の信者はどう思っているのだろうか」との投書が掲載された。5月5日の記事では、「『日本人のために落札した』といわれても腑に落ちない。総連側の資金援助が一切ないなら、調達方法、返済のプロセスを全てオープンにすべきだ」という公安関係者の指摘も掲載した。
 また、『産経新聞』(2013年5月11日)は、購入断念後に没収された保証金約5億円について、「没収される約5億円は、信者のお金では」との問いに対する池口氏の「仏様も許していただけると思っている」との答えを掲載したが、『読売新聞』(2013年4月8日)は、「全部自分のお金」という池口氏の答えを掲載し、『中外日報』(2013年5月14日)は「半分は池口氏が負担、残りの半分は個人からの借金で『最福寺からは一銭もありません』」と報じた。
 『産経新聞』ほど否定的な論調ではないが、『読売新聞』(2013年4月8日)も同様に公安関係者の「総連側が集めた金を寺に寄付した形にすれば、総連の資金かどうかを判別することは難しい」という宗教法人特有の問題についての懸念を掲載した。『産経新聞』が詳しく報じなかった融資と返済の方法については、「中央本部と神奈川・江の島にある別院の土地、建物を担保に」して融資を受け、中央本部を「信者らの位牌の安置場所にして、その収益を融資の返済に充てたい」と報じた[13]
【産経新聞.3.30
【朝日新聞.3.30


(3)朝鮮総連中央本部落札では宗教法人批判を封じた『朝日新聞』
 この問題で『朝日新聞』は、落札者が宗教法人であることや落札額が巨額であったことを、宗教法人への課税問題と結びつけて批判することはなかった。『朝日新聞』には他紙と異なり、総連広報担当者や、総連幹部、総連関係者、在日朝鮮人など、北朝鮮(総連)側のコメントが多く紹介され[14]、最福寺が落札した背景を追うというよりも朝鮮総連の歴史を回顧するような記事[15]が掲載された。
 『産経新聞』はコラム[16]で最福寺を直接批判し、『読売新聞』[17]は記事で「先月26日の落札以来、寺には抗議の電話や手紙が多く寄せられているという」と、また『朝日新聞』も記事で「(3月)26日に報じられて以降、『北朝鮮の手先なのか』といった抗議の電話やファクスが相次いで寄せられた」[18]との人々の反発を伝えた。だが、『朝日新聞』だけは「親交の深い右翼の人物らからは、『日本のためによくやってくれた』と激励の声が届いた」と好意的な反応をも伝え、「制裁は必要だが、針の穴は開けておく必要がある。窮鼠、猫をかんで国民がけがをしないためだ。それは政治家や宗教家の役割だと思う」という池口法主の主張を伝えた[19]。この言葉は、最福寺が落札を断念した後の5月14~17日まで北朝鮮を訪問した飯島勲・内閣官房参与の帰国に際して「『対話と圧力』の継続を」との『朝日新聞』が掲げた社説[20]と重なるかのようだ。
 このように高野山真言宗の宗会解散、最福寺による朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)中央本部ビルの落札では、主要紙の報じ方に各紙の特徴が見られた。ここでは主に宗教法人批判に焦点を当てて、『朝日新聞』と『産経新聞』の対照的な報道を取り上げた。誤報は問題であるが、たとえ宗教法人が批判されていたとしても、批判一辺倒ではなく各紙がそれぞれの論調に沿った記事を掲載しているという点で、宗教法人側は前向きに受けとめるべきなのかもしれない。




●追記1  
 高野山真言宗の宗会解散に関して1カ月以上も追記事がなかった『朝日新聞』だが、名古屋版では5月27日に「僧侶、人生に寄り添う 財テク・見習い騒動あったけど」との見出しで、「資産運用をめぐる問題で執行部トップ|が辞任した高野山真言宗や、ハローワークなどで集めた見習いに死者を弔わせた高野山真言宗の八事山興正寺。一連の騒動に読者からは宗教への不信の声が相次いだ。だが、『尊敬するお坊さんが身近にいる』という声も多かった」と、不登校児童らと暮らす僧侶や、ホームレスや難民認定されないミャンマー人を支援する僧侶を紹介する記事を掲載した。「読者から反響相次ぐ」として脇に掲載された読者の声4件のうち1件は、大多数の寺は信頼を積み上げており、自分は葬儀して感謝されているという高野山真言宗の僧侶からのものだったが、ほか3件は仏教寺院への批判だった。


●5月31日追記 
 5月27日の名古屋版に関連記事が出たあと、本稿執筆後の2013年5月31日東京版の「記者有論」というコーナーに、名古屋版に署名記事を書いていた記者の1人(特別報道部)が書いた「高野山真言宗 投機に散財より、心の救済を」とする意見が掲載された。高野山真言宗の資産運用に関して、「宗教法人が高リスクの金融商品に手を出すことの是非」を問いたいとしている。「半年にわたる高野山取材で驚いたのは、僧侶たちの金品への態度だ」と批判を展開し、「読者からは『尊敬されるはずの僧侶がお金への執着が強いことに驚いた』『宗教活動に課税すべきだ』『氷山の一角ではないか』といった反応が相次いで寄せられた」と読者の批判的な意見を紹介している。そして、「資産運用の全容はなお不透明だ。公権力の介入を招かないためにも、自浄作用を発揮して信頼を取り戻し、本来の役割を果たしてほしい。グローバル経済にのみこまれている場合ではない」と結んでいる。
【朝日新聞.5.31


●6月3日追記
 6月3日の『産経新聞』社会面に大きく、「“休眠”宗教法人増加、売買ブローカーも暗躍 脱税の温床に「特効薬」なし」との見出しで、「毎年、国などへの報告書類の提出が義務づけられているにもかかわらず、提出しない宗教法人が増加している。(略)税制面で優遇される宗教法人が脱税の隠れみのとして悪用される例も後を絶たず、売買を仲介するブローカーも暗躍。国税当局も監視を強めている」との記事が掲載された。「売られた」宗教法人の悪用例として、3月に法人税法違反の罪で福岡地検に追起訴された企画会社「アースハート」の例などが挙げられている。ただし、同時に掲載された文化庁調べ「書類未提出の宗教法人数の推移」のグラフは、平成22年が頂点で平成23年は下がっている。
参考URL:http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130602/crm13060221560015-n1.htm
【産経新聞.6.3



●下記は文責・藤山みどり

※注:現在の政局は、「休眠宗教法人急増という『朝日新聞』の報道について」というレポートを掲載したころとは大きく異なっている。2012年12月の衆院選で与党・民主党が惨敗、自民党が独り勝ちといった状況で、自公連立政権が発足。政局の変化に伴い、主要紙の論調に微妙な変化がみられるという指摘もある。

※参考:『朝日新聞』と『産経新聞』で宗教法人批判につながる報道がなされた2013年4~6月にかけての政治状況
 4月末は5月3日の憲法記念日を前に、憲法改正論争が盛んになっており、連立政権を組む自民党と公明党のスタンスの違いが鮮明になっていた時期である。自民党・安倍晋三首相は憲法96条改正に前向きな発言をしていた。だが、公明党の支持母体の創価学会は憲法9条改正に結びつく96条改正に反対で、公明党は96条改正に慎重だった。公明党の山口那津夫代表は4月に「改憲は連立政権合意の枠外」と首相を牽制し、5月に首相の憲法改正に向けての発言はトーンダウンしたが、首相は3日に「日本維新の会」や「みんなの党」も改正に賛成であるとして、参院選後の公明党外しをちらつかせた『産経新聞』2013年5月25日)。
 だが、憲法改正の世論は盛り上がらず、また、5月13日以降、日本維新の会の橋下徹代表の慰安婦問題をめぐる発言で維新の会の勢いが失速し、改憲勢力の自民・維新・みんなの各党だけで改憲発議に必要な参院での3分の2以上を確保できるかどうかは不透明になり(『毎日新聞』2013年6月4日)、公明党の存在が高まってきた
 ところが7月の参院選を前に各党が公約をまとめる5月末になると、また、自公の溝がクローズアップされてきた。安倍首相は5月24日、憲法改正の争点化を嫌う公明党への配慮から、公明党との共通公約を断念『産経新聞』2013年5月25日)。5月末にまとめる予定の公約を6月中旬に延期することを決定した(『朝日新聞』2013年5月25日)。公明党は、6月4日に参院選公約を発表したが、自民党との齟齬が表面化することを避けようと憲法改正や原発政策などを先送りした(『毎日新聞』2013年6月5日)。いずれにせよ、憲法改正は公明党がカギを握るとの観測が永田町に広がっている(『読売新聞』2013年6月9日)。民主党憲法調査会は、5月30日の役員会で、憲法に関する参院選公約の最終案を提示したが、党内の改憲派と護憲派の対立が収まらなかったため、玉虫色の公約となった(『読売新聞』2013年5月31日)。
 ちなみに、主要紙では、『朝日新聞』『毎日新聞』が護憲派、『読売新聞』『産経新聞』が改憲派である。特に『産経新聞』は2013年4月26日に独自の「国民の憲法」要綱をまとめて紙面で発表し、2013年3月10日付け社説で「『加憲』の立場はどうした」と憲法改正を進める自民党と連立を組む公明党の慎重な立場を非難するなど、強く改憲を支持している。


※参考:主要紙の報道について
 安倍首相のメディア戦略については、『しんぶん赤旗』2013年3月31日「大手5紙・在京TVトップ 首相と会食」、同4月11日「これでいいのか大手メディア 首相と会食 とまらない」、同5月21日「テレビがおかしいぞ! 首相と癒着 異常な持ち上げ」、『週刊ポスト』2013年5月17日「安倍晋三と朝日新聞の『不適切な蜜月東京新聞』2013年5月5日掲載の月刊『創』編集長の篠田博之氏によるコラム「週刊誌を読む」など(『週刊ポスト』記事に対する疑問)、『朝日新聞』2012年4月3日掲載「宗教法人なぜ非課税」という記事の報道の背景については『週刊ポスト』2012年4月23日「宗教法人課税4兆円増収計画」』」(消費税法案を成立させようとしている財務省が、民主党の増税に反対している公明党を賛成に転じさせるために、支持母体である創価学会のアキレス腱である宗教法人課税問題を『朝日新聞』に提起させ、公明党を揺さぶりに出させたという裏話)、2013年4月初旬から中旬にかけての財務省と『朝日新聞』の関係については財務省公式サイト(4月5日付抗議文、4月13日抗議文=4月5日付け『朝日新聞』の「民主党政権 失敗の本質1」という記事に事実誤認があるという抗議)など、『朝日新聞』の過去における北朝鮮に対する論調の特徴については、稲垣武「テポドンの脅威は軽視するのか」『「悪魔祓い」のミレニアム』(文藝春秋社2000年4月)などに記述がある。
 


__________________________________________________________________
 [1] 『仏教タイムス』2012年3月22日、『中外日報』2013年3月6日
[2] 『中外日報』2013年2月28日、高野山真言宗公式サイト「宗会解散について」http://www.koyasan.or.jp/shukaikaisan.html
[3] 『毎日新聞』2013年2月28日、同日の『産経新聞』では「不信任案可決や宗会解散は昭和27年の法人化以来初めて」との記述。
[4] 『中外日報』2013年3月2日
[5] 高野山真言宗公式サイト「宗会解散について」http://www.koyasan.or.jp/shukaikaisan.html
[6] 『京都新聞』2013年5月9日、共同通信http://www.47news.jp/47topics/e/241148.php
[7]  『産経新聞』2013年3月27日
[8] 『朝日新聞』2013年4月3日
[9] 『産経新聞』2013年3月27日
[10] 『毎日新聞』2013年3月26日
[11] 『毎日新聞』2013年5月10日
[12] 『産経新聞』2012年8月31日
[13] 『読売新聞』2013年4月8日
[14] 『朝日新聞』2013年3月27日、2013年3月30日、2013年4月3日
[15] 『朝日新聞』2013年3月30日、2013年4月3日
[16] 『産経新聞』2013年3月28日「産経抄」
[17] 『読売新聞』2013年4月8日
[18] 『朝日新聞』2013年3月30日、同日北九州版、2013年4月25日
[19] 『朝日新聞』2013年3月30日、同日北九州版
[20] 『朝日新聞』2013年5月19日