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宗教情報センターの研究員の研究活動の成果や副産物の一部を、研究レポートの形で公開します。
不定期に掲載されます。


2011/02/22

「休眠宗教法人急増」という『朝日新聞』報道について※2013年6月15日追記あり

宗教情報

藤山みどり(宗教情報センター研究員)

 


 

 

◆『朝日新聞』で2011年1月から続く宗教法人関連報道◆
 このところ予算関連法案の成立をめぐって国会では与野党の攻防が続き、民主党・菅政権は難しい局面に立たされている。そんな中、2011年1月末から2月にかけて、『朝日新聞』(東京版)が宗教法人についての企画記事を掲載している。第1弾は1月30日朝刊第1面に「活動実態のほとんどない休眠状態の宗教法人が急増していることが朝日新聞の調べで分かった」との記事が掲載された。さらに「休眠法人が、税制上のメリットを目的に事実上『売買』されている」として、第3面では“休眠法人の売買の実態”が大々的に報じられた。

 

    【1月30日第1面・第3面】

 

 

 この後、2月11日朝刊社会面には、お布施の「一部を、僧侶が葬儀業者に渡す仕組みがあることが朝日新聞の調べでわかった」という第2弾の記事が掲載された。末尾には、“宗教法人をめぐる問題についてのご意見や情報をお寄せください”と記載されており、今後も掲載が続くことが伺えた。

 
【2月11日
     
 
【2月18日

 

 その翌週2月18日朝刊社会面に第3弾として、「宗教法人など公益法人にしか認められていない民営墓地の経営を、石材業者などの営利企業が担っている例のあることが、朝日新聞の調べでわかった」という記事が掲載された。
 これらの記事は、いずれも「朝日新聞の調べ」ということであって、他紙に同様の記事の掲載はなく、この時期に掲載すべき特段の理由は見当たらない。細かく見てみよう。1月30日の第3面「15億円、お買い得やで」という見出しは、大観音で有名な「ユートピア加賀の郷」(石川県加賀市)を管理する宗教法人が、ホテルや温泉浴場などの施設とともに15億円で売りに出されていることからである。これまで11億~14億円で売買交渉をしたが、いずれも決裂したそうだ。施設を所有する会社の関係者は「施設を宗教法人に寄付すれば、ホテルの宿泊料や温泉の入浴料などを節税できる」とアピールしているという。ただし、この大観音に極度額の根抵当権13億円が設定されている(『北陸中日新聞』2010年5月15日)ことについては、触れられていない。このような「休眠宗教法人の『売買』はバブル全盛期の80年代後半から盛んになっていた」そうだが、根拠は明示されていなかった。
 2月11日の記事では、「お布施の一部を僧侶が葬祭業者に渡す仕組み」が初めて分かったように書かれているが、2006年3月6日の同紙にはすでに、首都圏の葬祭業者が僧侶から受け取ったリベートを業者が買収した宗教法人に非課税の“お布施”として計上していたため、東京国税局に所得隠しを指摘されたという事件が掲載されている。隠されていた事実を発見したという調査報道ではなく、今回の企画のために改めて掲載された記事であることが分かる。
 2月18日の記事でも、「石材業者などの営利企業が民営墓地を担っている例のあること」が朝日新聞の調べで初めて分かったような書き方である。ただし、本文中でも触れられているように、2000年の時点ですでに厚生省(当時)が墓地経営に関する指針を出して「名義貸し」を禁じたように、当時から、石材業者が宗教法人から名義を借りて墓地運営を行うケースが問題となっていた。営利企業が休眠状態の宗教法人を買収して墓地運営を行っているというケースは、『朝日新聞』では初出のようだが、他紙ではすでに報じられていた。これについては後述する。
 これらの一連の報道からは、「宗教法人格が適切に利用されておらず、宗教法人の税制優遇措置が悪用されている」「『信教の自由』という壁で調査が進まない」という主張が読み取れる。

◆『朝日新聞』と他紙の報道比較◆

 なお、この間、4紙がいっせいに報じた宗教法人関連の記事があった。金閣・銀閣寺住職の有馬頼底・臨済宗相国寺派管長が大阪国税局の税務調査を受け、2009年までの3年間揮亳(きごう)料として得た個人所得約2億円の申告漏れを指摘されたという記事である。

 内容は、“有馬管長は美術品販売業者から揮毫を頼まれ、1点あたり約5万円を受け取っていたが、非課税の志納金と考えて申告せず、文化財を購入していた。だが、大阪国税局は個人所得に当たると判断したため、修正申告を行った”というもの。

 『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『産経新聞』(写真上左より)のいずれも2月17日朝刊の社会面に掲載された。7段組みで最も大きく扱ったのが『朝日新聞』で、内容も宗教法人に否定的だ。有馬管長は「個人的には使っていない」(『朝日新聞』)と語っているが、国税OB税理士の「報酬をお布施として受領したのに、個人のサイフに入れて申告しないケースはある。こうして宗教法人と僧侶個人との会計の区分をあいまいにし、追徴課税される例は多い」というコメントを紹介し、1紙だけ申告漏れは宗教法人全般に当てはまるケースと枠を広げた。


◆2009年9月の『読売新聞』と重なる2011年1月の『朝日新聞』の報道◆
 さて、宗教法人に関する『朝日新聞』の報道の第1弾で用いられていた「休眠宗教法人急増」という見出しは、どこかで見た記憶があると、宗教情報リサーチセンター(RIRC)の宗教記事データベースで検索したところ、自公連立政権が選挙で大敗し、歴史的な政権交代で民主党・鳩山内閣が発足する直前の2009年9月13日朝刊の『読売新聞』(東京版・大阪版)で掲載している。見出しは「休眠宗教法人が急増」で5段組みである。このときは今回とは逆に、『朝日新聞』『毎日新聞』『産経新聞』では、同様の記事は見当たらない。この時期にこの記事を掲載する必然性が薄かったことが伺える。

【読売新聞2009年9月13日】
 さらに、同日の『読売新聞』(大阪版)では、別のページで関連記事として、「“聖域”悪用 金もうけ」「墓地ビジネスで30億円」などの見出しで、営利団体とおぼしき団体が宗教法人格を取得しての霊園経営で約30億円を売り上げた話や、ある企業グループの会長が競売にかけられた宗教法人の霊園を取得した事例を紹介。ちなみに『読売新聞』(大阪版)では、休眠宗教法人が脱税などに悪用されている問題を続報し、2009年9月23日朝刊では宗教法人格のネット売買、2009年10月14日朝刊では墓地の開発業者が宗教法人の名義借りをしたり、休眠宗教法人を買い取ったりして墓地経営する実態を掲載している。『朝日新聞』が2011年2月18日に報じたような実態は、2009年にすでに『読売新聞』で報じられている事実である。
 休眠宗教法人の問題については、2009年9月から10月にかけて『読売新聞』(大阪版)が報じた内容と、2011年1月から2月にかけて『朝日新聞』(東京版)が掲載した内容は、重なるようである。それぞれ、政界の駆け引きが盛んな時期で、他紙には見られない内容の単独報道という状況も共通している。

 

■『朝日新聞』と『読売新聞』の宗教法人に関するネガティブ報道■

 この『朝日新聞』と『読売新聞』の2紙をさらに詳しくみた。先ほどの宗教記事データベースで、「宗教法人」というキーワードで2009年1月1日から2011年2月19日までの両紙の記事を検索した。さらに、内容を精査するため、記事の件数を紋って各東京版に限定した。両紙に共通する記事を除外し、宗教法人についてネガティブな事件報道、意見や社説掲載を整理してみたところ、圧倒的に『朝日新聞』(東京版)が多い。
 『朝日新聞』(東京版)朝刊の投稿欄では、特に宗教法人を批判する声が多い。掲載日とタイトルを以下に記す。タイトルだけでは内容が判別しにくいものは( )内に該当部分をまとめている。その投稿と関連する出来事については、*として記載している。


   2009年1月13日「社寺優遇する税制見直して」
              *年末に掲載された困窮者救済を望む声に関連して
   2009年10月2日「高所得者には応分の税負担を」
             (宗教法人は無税だと聞くが、今度の総選挙ではある宗教団体から多数立候補していた) 
              *8月30日の衆院選で「幸福実現党」が337人の立候補者を擁立。
   2010年2月26日「自治会費が神社経費に、の実態」
              * 2010年1月21日、神社への市有地無償提供に違憲判決
   2010年6月17日「営利目的の霊園開発歯止めを」
              *投稿者の家の前でも墓園開発が
   2010年7月7日 「宗教法人の課税優遇再考を」
              * 消費税増税案が浮上

 このほか、同紙では2009年10月4日に「Opinion オピニオン 耕論 宗教法人の優遇措置は必要か」と題して、編集者・翻訳家の中村圭志氏、臨済宗神宮寺住職の高橋卓志氏、全国霊感商法対策弁護士連絡会事務局長の山口広氏の3氏の意見を紹介している。この3氏の意見は各々異なり、概ねバランスは取れている。だが、その翌日10月5日には、「どう見る? 宗教の政治参加」として、夏の衆院選で戦った幸福実現党に関連して、政治と宗教の関わりについて否定的な論調の記事が掲載されている。このように『朝日新聞』(東京版)は、宗教法人に対して批判的な記事が多い。だが、それでも今回のような連続した企画記事は珍しい。
 これに対して『読売新聞』(東京版)では、このような否定的な記事は、先ほどの2009年9月13日朝刊の「休眠宗教法人が急増」という1件のみだった。
 今回のレポートは、このような報道があったという報告に留めたい。本稿は2011年2月20日に書いたものだが、『朝日新聞』の2011年2月21日朝刊でも、「抜け道墓地 被害続々」「宗教法人隠れみの 企業が経営」「暴力団が墓参り妨害転売され追加の金要求」という見出しを掲げた関連報道があったことを付け加えておく。

 

 

 

 

※追記:興味を持たれた方は、「宗教界の震災支援が報道されない理由~阪神・東日本大震災の比較より~」後半の 「3.なぜ、『朝日新聞』で震災支援活動が報じられなくなったのか」の章もご参照ください。

    本稿執筆時に筆者が書いていたものの陽の目を見ることができなかった本稿執筆の主題-ある政党が公明党を支持層に取り込もうと働きかけているとき、その政党と論調を一にする新聞に、宗教法人に関するネガティブな記事が掲載される傾向があるようだ-という内容に関連する情報を書いています。

※『読売新聞』(2009年9月13日朝刊)に「休眠宗教法人が急増」という記事が掲載されたのは、2009年夏の選挙で自公連立政権が大敗し、9月16日に民主党政権が発足する直前である。当初、公明党は自民党との協力の見直しを検討しており、政策の内容次第では民主党中心の連立政権に協力する考えを示しており(『日本経済新聞』2009年9月10日)、自民党側から言えば、自民党との協力体制が解消される「危険性」があったころである。

※『朝日新聞』(2011年1月30日朝刊)に「休眠宗教法人 急増」という記事が掲載されたのは、政府・民主党が2011年度予算関連法案成立のため公明党にアプローチをしていたころ(『日本経済新聞』2011年1月24日)である。


※※2013年6月15日追記
   『産経新聞』(2013年6月3日朝刊)に、2009年9月の『読売新聞』や2011年1月の『朝日新聞』に掲載されたものとよく似た「休眠宗教法人 脱税の温床」という記事が掲載された。他紙には掲載されておらず、この時期に掲載する必然性が低い記事であった。

 

   このころ、2013年7月の参院選を控え、憲法改正の議論が盛んになっていた。 2012年12月の衆院選で自民党が圧勝、与党・民主党が惨敗し、自公連立政権が復活したものの、憲法改正に前向きな自民党と慎重な公明党など政策面で足並みが揃わず、駆け引きが続いていた。自民党は、同じく改憲派の日本維新の会、みんなの党と参院選後の結集を期待していたが、日本維新の会の勢いが失速したため断念。連立を組む公明党の存在意義が高まり、自民党が憲法改正に慎重な公明党に配慮する形で、5月末には参院選の共通公約が見送られた。だが、憲法改正をめぐる駆け引きは続き、自民党側は公明党を歩み寄らせようとしていた。6月10日発売の月刊誌『Voice』で、憲法改正の発議要件を定めた96条の見直しに関し、条文ごとに発議要件に差をつける提案をした安倍晋三首相のインタビューが掲載されたことは、憲法改正に公明党の理解を得るねらいがあると見られた(『読売新聞』2013年6月5日)。これに呼応し、公明党の山口那津男代表は6月9日に、「憲法の3原則に関連する条項以外は、改正要件の緩和に柔軟な対応するものもあるかもしれない」と述べた(『読売新聞』2013年6月10日Web)。ちなみに、『産経新聞』は改憲派の新聞で、3月~5月にかけて、北朝鮮と結びつきが深い朝鮮総連中央本部ビルを落札した(最終的には購入を断念した)宗教法人「最福寺」への批判記事を掲載していた(レポート参照)。