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2016/09/28

『生と死を巡って 未来を祀る ふくしまを祀る』  和合亮一著  イースト・プレス
 

 
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2016年 3月 1852円 +税


 2015年8月、福島で「ふくしま 未来の祀り」が行なわれた。発起人の詩人・和合亮一は、東日本大震災で亡くなった死者たちに思いを馳せつつ未来を見つめるという強い意志を、「祀り」という言葉に込めた。曰く「祀りというのは、日々の暮らしの中で感じられないことをみんなが感じて、笑顔になって帰っていく場所ではないでしょうか」(「おわりに」p.133)。和合はまた、手を合わせ、話し、一緒に泣くことも大切だと本書で述べている。そのようなひとときを確保するのは、忙しい日々の生活の中では難しい。それでも一年に一回、そのような場を皆で創っていきたいというのが、和合をはじめ「ふくしま 未来の祀り」を運営するスタッフたちの願いだ。
 
 福島市内の福島稲荷神社をメイン会場とした2015年の「ふくしま 未来の祀り」のプログラムは、震災と原発事故のあとの危機意識を反映した防災シンポジウム、被災地へ歌を届ける活動をしている八神純子のミニ・コンサート、福島県内在住の作家や学者によるシンポジウム(登壇者は和合亮一、柳美里、若松英輔、開沼博)、詩と歌によるトークライブ、影絵芝居、創作神楽「ふくしま未来神楽」の奉納など、じつに多彩だ。

 本書は、この「未来の祀り ふくしま 2015」の記録であり、和合亮一の震災詩、震災後の福島の風景と祀りにおける参加者たちの表情を撮った写真家・小池伸一郎の写真、シンポジウムやトークライブの登壇者たちが発した数々の言葉が濃密に詰まったヴィジュアル書籍だ。
 
 2011年3月、震災の衝撃と放射能汚染の恐怖に襲われる中、和合はツイッターで次のようにつぶやいた。
 
    ここまで私たちを痛めつける意味はあるのでしょうか。(3月16日21時33分)
    私は震災の福島を、言葉で埋め尽くしてやる。今後は負ケネエゾ。(3月18日1時6分)
    詩の礫(ツブテ)をやります。 (3月18日14時5分)
 
 この詩の礫がきっかけとなり、和合は『詩の礫』(徳間書店 2011)、『廃炉詩篇』(思潮社 2013)など次々と作品を発表。その先に、言葉による鎮魂・祝祭事としての「ことば神楽」が実現していった。祀りでは、詩人・及川俊哉も現代祝詞「原子力発電所鎮めの詞(ことば)」を朗誦した。その詞は、福島で暮らす人々の意識の圧力釜から吹き出してきたような表現となっている。
 
    (冒頭)
    謹み敬って福島第一原子力発電所
    一号機、二号機、三号機、四号機の
    神等に申してまふさく
 
   (終わり)
    汝神等は荒びたまひたけびたまふ事無くして
    神直び大直びに直したまひて
    神和し和したまひて
    神ながら静まりませとかしこみかしこみ申す
 
 本書にはほかにも、翻訳家・柴田元幸による「ノアの箱舟」(ロジャー・パルバース『新バイブルストーリーズ』集英社 2007)の朗読、音楽ユニット・けものによる歌の歌詞なども収められ、言葉に重きを置くパフォーマンスを臨場感のある写真とセットで感じることができる。
 
 祀り終盤の舞い「ふくしま未来神楽」の第4部には、「風来(ふうらい)」という題が付いている。放射能汚染と先行きの見えない不安を、和合は「起承転転」と表現した。結のない叫びが境内いっぱいに溢れ、人々はじっとそれを聴く。ページの言葉を音読しなくても、様子を伝える写真から十分にことばが心に入ってくるだろう。
 
 「おわりに」で、和合はこう語っている。
 
    私たちは
    風が吹くのを待つのではない
    こちらから
    風を吹かせるのだ
    それが未来を祀る

 
 本書のどこを開いても読者は、静かに吹いているふくしまの祀りの風を感じることができるだろう。
 
 奥付の編集発行人の欄に、木村健一(昭和62年3月福島県立福島高校卒)とある。木村は、高校時代からの和合の友人だ。2015年、和合のそばでずっとその言葉に耳を傾け続けていた木村の姿を、私は祀りの場で目にしている。そして今年、2016年の祀りの場には、嬉しそうに本書を携えた木村が居た。多くの人が集って創りあげた福島の新しい祀り。それをまとめた本書は、福島育ちの木村と和合が未来へ向けて刊行した共同作品である。

*「未来の祀り ふくしま」のミニ・レポートは、佐藤壮広「福島を生きる言葉と心」(渡邊直樹責任編集『宗教と現代がわかる本 2016』平凡社 2016 所収)でも読むことができます。
                   
                                         (宗教情報センター研究員 佐藤壮広)